アジアは、パンデミック※1を引き起こす可能性が高い新興感染症の中心地域と言われており、その新興感染症の1つが高病原性鳥インフルエンザ(H5N1ウィルス)です。2013年3月12日現在、世界保健機関(WHO)は全世界で622件のヒトの症例を確認しており、その60%にあたる371件が死に至っています。これらの症例のほとんどがアジアの国々で発生しています。感染症の専門家は、H5N1ウィルスがヒトからヒトへ容易に感染する能力を獲得した場合、ヒトにおいてパンデミックを引き起こす可能性が高いと指摘しています。ウィルスの感染拡大を阻止する、もしくは遅らせることによって、パンデミックがもたらす脅威を軽減する方法の1つが早期封じ込め(Rapid Containment)※2と呼ばれる手段です。
「日・ASEAN統合基金鳥インフルエンザ対策支援」及び「ASEF日本信託基金新型インフルエンザ対策支援」では、機材や役務の調達業務、資金管理業務の他に、抗インフルエンザ薬や個人防護用品(PPE)といった備蓄品を適切に保管・管理し、パンデミックと成り得るインフルエンザウィルスが発生した場合には、早期封じ込めの一環として、WHO西太平洋事務局(WPRO)の指示により、発生国に備蓄品を緊急輸送するというこれらプロジェクト特有の任務もJICSが担っています。
2013年1月15日・16日、世界最多のH5N1ウィルス感染者数を記録している国の1つであるベトナムの保健省は、WPRO及びWHOベトナム事務所と共同で、早期封じ込めの実施に必要な当該国のさまざまな手続きについて訓練・検証を行う「PanStop Exercise」演習を実施し、JICSも参加しました。ベトナム北部でインフルエンザが発生したというシナリオに基づき、抗ウィルス薬とPPEをベトナムへ緊急輸送するシミュレーションも実施されました。WPROの指示を受け、JICSは抗ウィルス薬とPPEが備蓄されているシンガポールの倉庫会社やベトナム保健省と緊密に連携し、備蓄品の模擬緊急輸送の手配を行うとともに、実際の早期封じ込めで重要となるWPROやベトナム保健省とのコミュニケーションや調整について確認を行いました。WPROは様々な国において異なるシナリオで「PanStop Exercise」を実施し(JICSも参加)、アジア太平洋地域の早期封じ込め戦略の展開に貢献しています。
両プロジェクトの開始以来、幸いなことに備蓄品の緊急輸送が必要となる事態は発生していません。しかし、JICSにとって、早期封じ込めを成功させるため、WPROやベトナムを含めた各国の保健省と協力関係を築いていくことはもちろん、上記のような演習に定期的に参加し、備えることは重要となっています。
※1パンデミック:感染症等の世界的大流行
※2早期封じ込め(Rapid Containment):パンデミックとなる可能性のあるインフルエンザ発生時に、感染拡大の阻止を目的として行う臨時(緊急)の公衆衛生活動のこと。内容は抗ウイルス薬等の投入・使用だけでなく、人の移動制限や情報提供など多岐にわたる。