平成25年度サブサハラ・アフリカ地域円借款事業案件形成支援及び貸付実行促進業務 (サブサハラ・アフリカ)

2016年4月15日

※日本国際協力システム年報2013掲載

円借款事業の案件形成や円滑な進捗、貸付実行を促進するため、サブサハラ・アフリカ地域
6カ国へ職員を専門家として派遣しました。今回の案件の概要と今後の可能性について、現地で業務に携わった2名に聞きました。

中澤 敏之
業務第三部
資金協力支援課
中澤 敏之
(なかざわ としゆき)
工藤 俊一
業務第三部
工藤 俊一
(くどう しゅんいち)
  • 案件名: 平成25年度サブサハラ・アフリカ地域円借款事業案件形成支援及び貸付実行促進業務
  • 目的: サブサハラ・アフリカ地域(ケニア、ウガンダ、タンザニア、セネガル、カメルーン、ザンビアの6カ国)における円借款案件の実施促進支援等を目的とした、現地での貸付実行支援、返済支援、調達手続き支援、投融資見込み作成支援、新規案件形成支援
  • 契約先:独立行政法人 国際協力機構(JICA)

Q1. プロジェクトの概要を教えてください。

(写真)
ウガンダにおける貸付実行方式のプレゼンテーション

 2008年に開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)において、日本政府は5年間で最大4,000億円の円借款供与を公約として掲げ、2012年にサブサハラ・アフリカ地域で計11カ国26案件の円借款を実施しました。

 しかし、これらの国々では円借款事業の実績が少なく、相手国政府や実施機関が手続きに習熟しておらず、また政府内での承認手続きが煩雑であることなどから、2012年度末時点で貸付融資残高は2,253億円に上り、適切なプロジェクトの進捗と貸付実行の促進が課題となっていました。

 さらに、2013年のTICAD Vにおいて、新たに5年間で最大6,500億円の円借款供与が公約に盛り込まれたことから、国際協力機構(JICA)はサブサハラ・アフリカ地域6カ国(ケニア、ウガンダ、タンザニア、セネガル、カメルーン、ザンビア)における有償資金協力案件形成や円滑な進捗、貸付実行を促していく専門家の派遣を決定。JICSはプロポーザル競争により本案件を受注しました。

Q2. このプロジェクトの難しさはどこにありましたか。

 今回のプロジェクトでは、JICSの使命は、調達代理機関として相手国政府・実施機関に代わり調達業務を実施するのではなく、相手国政府・実施機関の案件形成、調達実施、貸付実行、投融資見込み、返済実施におけるボトルネックの改善を支援することでした。

 例えば資金貸付は一括ではなく、コントラクター・コンサルタントからの請求に基づき、借入人( 相手国政府)からJICAへの要請に従ってその都度、実行されますが、書類の不備などで手続きに時間がかかり、コントラクター・コンサルタントの請求から支払いまで長期にわたるケースがありました。借入れに伴う返済においても、手続き遅れによる返済遅延、為替変動による返済額不足、日本との時差による返済遅延などがありました。返済が滞ると新規借款が出せないなどの影響が出るので、プロセスを聞き取り、どこに問題があるのか確認して適切な解決策を提示し、改善していかなければなりません。しかし、1カ国あたり3週間という滞在期間のなかで確実に成果を上げるのは容易ではなく、相手国の関係機関の意思決定や手続きの遅さなど、現地入りして初めて具体的な課題がわかるケースもありました。

 このような作業を通して、聞き取りを基に私たちが業務フローを作成し、それぞれの業務内容や必要とする期間などを可視化し、問題点なども含めて手続きに携わるメンバーと共有したところ、新たな気付きもあり、一定の効果があったのではないかと思います。

 また、新規案件には日本企業が参画できる案件の形成が求められましたが、一般的にアフリカ諸国で借入国が必要としているインフラ案件では日本の高い技術を必要としていないなど、マッチングに課題がありました。しかし東アフリカは、一般無償案件の実績も多いことから日本の建設会社の進出基盤ができており、円借款も比較的参入しやすいようです。

(写真)
セネガルの実施機関にて
(写真)
ケニアにおけるポートフォリオ会議での
貸付実行方式のプレゼンテーション

Q3. JICSのこれまでの経験や知見は活かされましたか。

 円借款事業は、これまでJICSが主に携わってきた無償資金協力のプロジェクトと比較すると、規模においても制度的にも違いはありますが、現地での入札による、コンサルタントやコントラクターの選定・契約、機材調達、案件の実施管理、事後の監理など、JICSがこれまで円借款調達手続きの一次チェック業務、調達事後監査業務、コミュニティ開発支援無償や防災・災害復興支援無償などを通して培ってきたノウハウや能力が、今回の業務において役立ちました。また、JICSはアフリカで数多くのプロジェクトに携わってきており、今回の対象国すべてでプロジェクト経験があることや、アフリカ地域に関する豊富な知見も活かされたと思います。

Q4. 本プロジェクトの意義を聞かせてください。

(写真)
タンザニア道路公社エンジニアとの
プロジェクトの遅延についての勉強会

 アフリカ諸国の相手国政府・実施機関においては、世界銀行やアフリカ開発銀行の諸手続きには慣れているものの、日本の円借款の諸手続きに不慣れなケースが目立ちました。TICAD Vで公約された通りに案件の拡大を図り、確実に実施していくためには、今回の支援のように現場レベルでの実務手続きへのキャパシティ・ビルディング(Capacity Building:開発途上国において各種案件の実施に必要な能力を開発・育成すること)が継続して必要です。

 円借款は長期にわたり、かつ複雑な手続きを必要とする案件です。このため効率的な円借款案件の実施には、相手国の実施機関や援助を行うJICAにとって、ノウハウの蓄積や継承が求められます。JICSが長期的・俯瞰的な立場で、円借款案件の実施促進に携わることができれば、調達書類の一次チェック業務で関わっているように、JICSが円借款事業の実施において貴重な存在になり得る可能性はあると思います。