パキスタン北西部の連邦直轄部族地域(FATA:The Federally Administered Tribal Area)は、さまざまな部族の居住地域であり、この部族社会という特殊性からパキスタン政府による社会開発が遅れ、貧困問題が深刻となっていました。同国政府のFATAへの社会開発、貧困削減への取り組みを支援するため、日本政府は医療および学校教育の改善を目的としたノン・プロジェクト無償資金協力を実施しています。
JICSはこのプロジェクトに関して、パキスタン国経済統計省との調達代理契約に基づき、医療分野および学校教育分野への支援における調達業務を実施しています。
既に全ての機材(救急車、医療機器、発電機など)の納入を完了している医療分野に続き、2010年5月、学校教育分野として机、椅子、黒板、教材保管用キャビネット、敷布など11品目合計12万6,994台の納入が完了しました。このプロジェクトによって調達した学校家具は、FATAの小中学校、短大など計1,563校に引渡され、使用されています。
本プロジェクトを進めるにあたっては、対象地域が部族社会であるために、地域内の部族間に不公平が生じることがないよう、関係者との協議を重ね、慎重に業務を進める必要がありました。
また、地域内ではできるだけ多くの学校設備の整備が望まれている一方で、同地域には外国人のみならず他地域のパキスタン人さえも立ち入ることが困難な状態であるため、品質管理や輸送の実施において特別な配慮が必要となりました。特に、機材の輸送については、外国からの援助物資だということがわかると、襲撃や略奪の標的になるおそれがあることから、トラックの荷台に幌をかけるなどして、何を輸送しているのかわからないようにしました。
通常、輸送完了後は援助物資が現地に届いた様子をカメラで撮影し、関係者へ報告する際にその写真を添付することとなっています。しかし、FATAに入る際は、入念な荷物検査やボディチェックがなされるため、カメラを持ち込むことも容易ではありませんでした。また、カメラを持ち込むことができても、不用意に撮影すると周囲の反感をかったり、スパイの嫌疑をかけられることにもなりかねないため、周囲に十分配慮した上で、必要最小限の撮影のみを行いました。
このような緊迫した状況のなか、学校家具の輸送は約8か月間にわたって行いました。その間、本プロジェクト対象地域の治安が悪化し、当初予定していた輸送先の変更を余儀なくされるなどのハプニングも発生しましたが、その都度、関係者とともにひとつひとつの問題を乗り越えてきました。
これまでFATAの学校では、学校家具が不足していたうえに、使われていたものは老朽化が著しい状態でした。生徒たちは今、本プロジェクトによって届けられた真新しい机に向かって、一所懸命勉強しています。
本プロジェクトの実施が、生徒たちの学習環境の改善、同地域の教育水準の向上につながり、治安安定と貧困削減に向けての第一歩となることを願ってやみません。