2007年1月に雪の降るなか地鎮祭を行ってから2年10か月。再建工事を進めていたバタグラム県中央病院が完成し、2009年10月14日にバタグラム県へ引渡しが行われました。
引渡し式では、完成したバタグラム県中央病院を前に地元バタグラム県の関係者から「バタグラム地域の医療事情の発展に大きく寄与する素晴らしい施設であり、地域の人々の健康のために最大限活かしていきたい」との大きな期待と感謝が伝えられ、引渡し式典に参加したJICS稲葉職員および現場に常駐し日夜工事進捗をモニタリングしているJICS現地スタッフにとっても、感慨深い式典となりました。
この引渡し式は多数の現地新聞でも写真付きで報道され、パキスタンの多くの人々に日本の援助を知ってもらう良い機会となりました。
今回完成したバタグラム県中央病院は、ベッド数130床を越える大規模な施設で、周辺地域の医療の中核と位置付けられています。震災後、独立行政法人国際協力機構(JICA)調査団が現地入りして設計した結果、利用者の利便性や維持管理の容易さの観点から、これまでパキスタンではあまり普及していなかった様々な設備が取り入れられました。
具体的には、病院の出入り口や病棟内には車椅子の人でも利用可能なスロープを設けバリアフリー化をしました。手術室は、院内感染を防止するためクリーンエリアと汚染エリアを分離しました。電気・上下水道・ヒーターなど施設に必要な配管・配電は全て病院の地下通路にまとめ、さらに配管の脇に人が入れる空間を設けることによって、今後のメンテナンスを行いやすい設計としました。
また、イスラム圏ではトイレの便器を神聖な方角であるメッカの方向に背を向けるような向きに設置してはいけないなど地域特有の決まりがあり、それらにも十分配慮して建設を進めました。
パキスタンではあまり一般的ではなかった設計を導入したことにより、建設の過程では、施工を担当したパキスタンの建築会社にとって未経験のことも多く、一時は「こんなに複雑な工事はできない」との言葉も聞かれましたが、施工監理を行ったコンサルタントの技師たちが現場で粘り強く指導にあたり、パキスタン政府側関係者、そしてJICSも一丸となり様々な問題に対処してきました。
建設現場周辺の治安が悪化して、外国人技術者が一時的に引き上げざるを得ない事態に直面したこともありましたが、こうしたことを乗り越えて事故もなく完成に至った今、本病院の建設に関わった多くの人々に対して、いくら感謝してもし足りないと感じています。
本中央病院が、先に完成しているバンナ地域医療センターや山間部に再建中の診療所と連携し、医療体制が構築されることにより、バタグラム地域の公衆医療が大きく改善することが期待されています。