円借款関連事業(一次チェック業務・調達事後監査・専門家派遣・地熱関連事業)

2016年4月15日

※日本国際協力システム年報2015掲載

有償資金協力(円借款)に関して、JICSでは借入国が作成する調達関連書類の「一次チェック」業務や「調達事後監査」「専門家派遣」などを行っています。近年は、莫大な資金と時間を要する「地熱発電」案件の実施促進に携わるなど、JICSの円借款での適正な調達手続き実施経験が、地球規模での課題への取組み事業にも活かされるようになりました。

石井 美絵子
業務第三部
資金協力支援課
石井 美絵子
(いしい みえこ)
井上 圭三
業務第二部
特別業務第二課
井上 圭三
(いのうえ けいぞう)

円借款事業に係る調達関連書類一次チェック業務(ロットB)

契約先:独立行政法人国際協力機構(JICA)

 円借款関連事業において、JICSはプロポーザル競争により2004年度より国際協力機構(JICA)※1から調達関連書類の一次チェック業務を受託しています。この業務は、借入国政府が作成・提出した調達関連書類がJICAの円借款ガイドラインや標準入札書類に準拠しているかどうかを審査するとともに、問題点や不明点を確認し、JICAへ英文表記の報告書を提出するという内容です。借入国政府にフランス・スペイン語圏の国も含まれることから、英語・フランス語・スペイン語に堪能で、調達手続きに精通したスタッフを配し、1件あたり3〜7日間という定められた期間内で迅速かつ漏れのないチェックを行っています。

 これまでに南西アジア、中南米、アフリカ、中近東、東欧地域の案件を担当し、2014年度は合計361件の調達関連書類の一次チェックを実施しました。

※1) 2008年9月までは旧・国際協力銀行(JBIC)から受託。

2012年度及び2013年度円借款事業に係る調達事後監査

契約先:独立行政法人国際協力機構(JICA)

 調達事後監査業務とは、プロジェクト実施に必要なコンサルタントおよびコントラクターの選定・契約手続きが、両国間の取り決めどおり適正に実施されたかを第三者によって確認するもので、STEP※2案件と契約金額の大きい案件を中心に行います。

 JICSは、プロポーザル競争により本件業務をJICAから受託し、JICA本部での書類監査業務とともに、任意に抽出した5件5カ国(スリランカ・バングラデシュ・ネパール・インドネシア・ウガンダ)については現地に赴き、借入国の実施機関に対して立ち入り監査を行いました。実施後は、監査結果と抽出された課題などをまとめた報告書をJICAへ提出しました。JICSではめずらしい監査業務ですが、調達の適正さを担保するという重要な役割を担いつつ、2011年度から継続して受託しています。

※2) STEP(Special Terms for Economic Partnership): 本邦技術活用条件。円借款事業の制度の一つで、日本の優れた技術やノウハウを活用し、途上国への技術移転を通じて日本の「顔の見える援助」を促進するもの。

(写真)
調達事後監査:バングラデシュ電信電話公社での監査
(写真)
調達事後監査:ウガンダにおける
監査対象プロジェクトの建設現場

マダガスカル国トアマシナ港拡張事業実施支援(有償勘定技術支援)

契約先:一般財団法人 国際臨海開発研究センター(OCDI)

 通常、円借款事業の実施前には、案件の形成内容や効率性などを確認するフィージビリティ・スタディ(F/S:Feasibility Study、協力準備調査)を実施します。「マダガスカル国トアマシナ港拡張事業」は2009年にJICAがF/Sを実施したものの、同国の政情不安定を受けて中断したため、再度、見直しを行うことになりました。本案件は円借款事業の最有力候補である一方、1988年以降はマダガスカル政府に対する新規の円借款供与がなく、実施機関であるトアマシナ港湾公社も円借款事業の実績がないことから、同事業の各種手続きに精通していない状況でした。このためJICAは、案件形成の促進に加え、円借款供与後の円滑な案件監理を行うためには実施機関の能力の強化が必要不可欠と判断し、既存F/Sに基づく最新情報の収集・分析、および円借款の手続きに関するセミナー開催など、実施機関への技術支援を行うコンサルタントの派遣を決定しました。

 一般財団法人国際臨海開発研究センターが本案件を受託し、JICSは補強協力として、マダガスカル国の公用語であるフランス語のネイティブ・スピーカーで、10年に及ぶ円借款関連業務の実績を持つ職員を調査団の一員として派遣しました。その職員は、これまでの業務経験を活かしつつ、円借款手続きに関する説明・指導や手順書の作成にあたりました。

(写真)
マダガスカル:インド洋に面した、
プロジェクトサイトのトアマシナ港
(写真)
マダガスカル: 円借款手続きの説明をするJICS職員(右)

トゥレフ地熱発電所建設コンサルタント業務のうち資源評価業務における掘削関連工事調達業務

契約先:西日本技術開発株式会社

 インドネシア政府は、増大する国内電力需要への対応と、気候変動対策として再生可能エネルギーの開発促進に取り組んでおり、調査によって有望な地熱資源の存在が確認されたマルク州アンボン島に、老朽化したディーゼル発電を代替する地熱発電所の建設計画を立案しました。これを受け、JICAはインドネシア政府へエンジニアリング・サービス借款「地熱開発促進プログラム(トゥレフ地熱発電事業)」の貸付契約を締結しました。

 本案件は、地熱発電所の前段階として建設地に4本の地熱井※3を掘削するもので、JICSは掘削会社の選定に係る入札図書の作成、選定後の契約交渉を地熱開発コンサルタントに協力しています。

 今回のJICSの業務内容は掘削会社の選定でしたが、地熱を得るには地下2,000mほどの掘削が必要です。地中深くの工事は何が起こるかわからないため、契約条件も従来の建築・土木案件とはまったく違います。例えば、掘削用ドリルの刃の脱落や、有毒ガスが発生して工事が中断した場合は、掘削会社ではなく発注者側が補償するなど、掘削工事に特有の商習慣を契約条件に盛り込みました。このように地上と地下では契約条件が大きく異なることを初めて学べたのは、新たな収穫と言えるでしょう。

 また、円借款調達関連書類の審査業務経験が豊富で、円借款ガイドラインや標準入札書類を熟知した担当者が、円借款における適正な調達を実施していくうえでのノウハウを指導したことで、実施機関にも手続きを的確に説明でき、本件の調達が円滑に遂行されました。これもJICSの一つの強みになっていると実感しています。

 JICSでは円借款以外でも、地熱関連案件ではインドネシア(トゥレフとは別案件)・ケニアの技術協力プロジェクト、エチオピアの無償資金協力に携わっています。それぞれの業務範囲は異なりますが、これら案件で得たノウハウを結集させることで、今後の地熱関連事業に幅広く対応できると考えています。

※3) 地熱井(ちねつせい、geothermal well):地熱に含まれる蒸気や熱水を採取・調査するための竪坑。