日本のODAでニカラグアに線形加速器を調達
〜大きな期待を背負う、無料の高度がん医療〜

2019年7月17日

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引渡し式の様子1 (ニカラグア共和国保健省提供)

 中米のニカラグアには放射線をがんの病巣に集中照射し、破壊する高度な医療機材「線形加速器」が導入された施設がなく、この機材を用いた治療は多くの患者にとって手の届かないものでした。またニカラグアでは保健・医療分野で、線形加速器に限らず機材の不足等、多くの課題を抱えており、ニカラグア共和国政府は日本国政府に対し医療関連機材等の供与を要請し、2016年9月にODA無償資金協力「経済社会開発計画」(供与額5億円)の実施が決定しました。

 このプロジェクトでJICSはニカラグア共和国政府と契約を結び、調達代理機関として、ニカラグアに供与される機材の選定※1、入札、機材の運搬、設置、トレーニング等のマネジメント業務、援助資金の管理等を実施しました。機材選定に向けた調査の際、首都マナグアの国立放射線治療センターは時代遅れとも言えるコバルト放射治療器を使用しており、同国保健省や医療関係者から、放射線治療の高い需要から、がん治療の新しい選択肢として、線形加速器導入への強い要望が出ました。線形加速器での治療には取り扱う医師や技術者にも高い技術等が必要ですが、同センターが技術支援を受けていたIAEA(国際原子力機関)の協力が得られることとなり、線形加速器の導入が決定しました。

 線形加速器の到着に間に合うよう、機材の仕様にあわせた専用設置室を建設するなど、関係機関が協力・連携し、少しずつプロジェクトは進みました。JICSにとって初めての線形加速器調達でしたが、CTスキャンやMRIなど医療機材の調達経験を役立てることができました。

 2019年5月7日、国立放射線治療センターに導入された線形加速器の引渡し式が開催され、ニカラグア共和国カロリーナ・ダヴィラ副首相、ソニア・カストロ保健大臣、鈴木康久駐ニカラグア日本国大使が出席されました。しかし、報道を見て驚いたのは、大勢の患者やその家族も参加されていたことです。線形加速器の導入を待ち望んでいたこと、新たな治療への希望、寄贈した日本政府と日本国民への感謝の気持ちなど、インタビューからひしひしと伝わってきました。

 このプロジェクトにより、ニカラグア国内で線形加速器による高度医療を無料で受けることが可能になりました。今後この機材ががん治療の推進に貢献し、1人でも多くのがん患者の命を救うことを切に願っています。

 最後に、国立放射線治療センターのアルフレード・ボルヘ医師(センター長)より今回の導入についてコメントをいただきましたのでぜひお読みください。

ニカラグア国立放射線治療センターアルフレード・ボルヘ医師(センター長)より

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アルフレード ボルヘ医師

Q:線形加速器導入の感想をお聞かせください。

線形加速器は、最新技術を用いた、がんに対する放射線治療分野での高度医療機材です。本機材はニカラグアに初めて導入され、現時点で当国唯一の機材です。

国民、特に貧しい方々に対して無料で医療サービスを提供できるようになり、保健省、ニカラグア共和国政府は、がんの放射線治療分野の質的・量的改善に大きな一歩を踏み出しました。これまでは海外で治療を受けざるを得ず、結果的に家族まで多大な出費や困難が強いられていた患者の方々に対して専門的な治療が可能となりました。

Q:現在の活用状況は?

子宮がん、前立腺がん、リンパ腫がん、胃がん、胆道がん、神経内分泌がん、小児腎腫瘍及び成人男女の腎臓がんの違いに留意して、三次元放射線治療の技術を使って治療を実施しています。今後は、強度変調放射線治療(IMRT)※2を計画しており、毎日、約30人の患者を診察しています。現在までに15人以上の治療計画の策定を終えました。

スタッフは、メーカーが提供する技術者養成研修や国際原子力機関(IAEA)の技術協力を通じて技能の研鑽に励んでいます。線形加速器の性能を最大限引き出し、中長期的に新しい技術を導入できるよう、2ヶ月の外国研修も行われます。

Q:治療を受けた患者さんの感想は?

「線形加速器の治療を受けることができて幸運です。」

「この機材は高額だし、運用も難しく、通常は治療を受けることができないので、無料で治療を受けられてとても満足です。」

「日本政府とニカラグア政府、双方に感謝します。」

「線形加速器の供与を実現した日本政府と日本国民に感謝します。」

などのコメントを、治療を終えた方や治療中の方からいただきました。

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引渡し式の様子2(ニカラグア共和国保健省提供)

※1:機材を選定(決定)するのはニカラグア政府であるが、JICSは様々な機材や、現地使用に適した仕様等について、情報提供や助言を行う。

※2:強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)
放射線治療計画装置の最適化計算により、がん組織には放射線量を高く、隣接する正常組織には放射線量を低く抑えて照射することを可能にした治療。

プロジェクト基礎情報

案件名 経済社会開発計画
政府間決定日 2016年9月16日
供与(E/N)額 5.00億円
調達代理契約 2016年11月4日
プロジェクト概要 医療関連機材の供与
JICSの役割 ニカラグア共和国保健省の調達代理機関として、線形加速器等の調達、トレーニング等のマネジメント業務、援助資金の管理等を実施