パキスタン 中小企業製品を活用した無償資金協力で、イスラマバードのJapanese Park (日本公園)に新しい遊具が設置されました

2016年2月22日

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劣化の進む日本公園既存遊具

 2013年4月30日、パキスタン・イスラム共和国(以下、「パキスタン」)の首都イスラマバードで、「平成24年度中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力※1」(以下「中小企業ノンプロ」)に係る交換公文が署名されました。パキスタン側から日本政府に要請があがったものの一つが、『遊具』。奇しくも29年前の同日、当時の中曽根康弘首相がパキスタンのイスラマバードを訪問しました(1984年4月30日)。このとき、日本とパキスタンの友好の印として、パキスタン政府に遊具の提供が約束され、提供された公園はこれをきっかけに整備されたことからJapanese Park(以下「日本公園」)と呼ばれるようになったそうです。実は、60年を超えるODAの歴史において一風変わっていると思われた今回の機材要請の背景には、29年前の同案件の存在があり、本案件はそのフォローアップ事業ともいえるものだったのです。

 イスラマバード市北部に位置し、約3万坪もの広大な面積を持つ日本公園は、開園当初から現地の人々に愛され、長らく週末の娯楽スポットとして人気を博してきました。しかし、真夏の気温が39度にも上るイスラマバードの容赦のない太陽光線を浴び続け、パキスタン政府側の修理作業も追いつかず、当時の技術を誇る遊具は老朽化・劣化し、子どもたちは安心して遊べなくなってしまいました。

 このような状況下、他の公園とは一線を画する日本製の木製遊具を整備したいとのパキスタン側実施機関(首都開発庁Capital Development Authority, CDA)の強い要望を受け、中小企業ノンプロを活用して、日本の中小企業が製造する30種類の木製遊具の設置が決定しました。JICSでは入札を実施し、サプライヤーとなる商社や、設置する遊具メーカーが決定しましたが、このメーカーにとってパキスタンへの輸出は初めてのことでした。通関に必要な木製遊具のパーツの薫蒸処理※2の確認、遊具設置作業用の工具を日本から持込む必要性があるか等の様々な確認など、メーカー、商社、JICSなど関係団体で協力し、現地とのやり取りをひとつひとつ手探りで進め、円滑な案件進捗のために、あらゆるトラブルを想定して慎重な姿勢で臨みました。

 遊具が日本で生産され、工場検査・船積み前検査を経てパキスタンに到着するまでの間、パキスタンの日本公園では、現地の工事会社による既存遊具の撤去や、新しい遊具を迎え入れるための基礎工事がCDAの負担で行われました。一方、遊具メーカーは詳細な設計図を作り、わかり易いよう工夫した作業工程指示書を英訳して現地関係者に渡すなど、遊具到着時に滞りなく据付作業が開始されるよう、熱の入った現地工事会社への支援・指導にあたりました。

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解体された既存遊具
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手掘りで行う基礎工事
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パキスタンへの輸送を待つ遊具

 CDAの要望に基づき、遊具据付作業は、遊具メーカーが現地工事会社の労働者を監督・指導しながら行うことになりました。遊具メーカーから5名の日本人技術者がパキスタンの地に渡りました。日本ではパワーショベルやコンクリートミキサー車を使用するのが当然の作業も、手掘り・手作業で行う現地の作業形態。幸いにも作業が滞るラマダン(断食期間)下での工事は避けられたものの、文化の違いと、思うようには捗らない進捗状況に当初は戸惑いもあったようですが、「これがないから出来ないなどと言っている場合ではない。」と奮闘した彼らの底力で、当初見込み通りの約3週間で据付作業は完了しました。

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遊具コンテナの搬入
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日本と比べて手作業が多い遊具据付

 また、遊具が末永く有効活用されるよう、調達されたスペアパーツ一式を使用した修理方法を説明するトレーニングがCDA技術者に対して実施されました。CDAは本案件における当該遊具メーカーの働きに大変感謝し、全ての業務を終えて帰国する遊具メーカーの技術者全員に心からの感謝の言葉が送られました。

 2015年12月31日、日本公園では盛大な開園の式典が催されました。滑り台、ブランコ、ロープーウェイ、ネットをふんだんに利用したコンビネーション遊具など、子どもたちの好奇心を刺激する要素を一杯に詰め込んだフィールドアスレチックタイプの遊具を備えた日本公園の新たな誕生です。中曽根首相(当時)のパキスタン訪問を記念して開園した1985年12月から丁度30年後のリニューアルオープン。式には、CDAのムスタファイン・カズミ理事、猪俣弘司駐パキスタン日本国大使(当時)に加え、近隣の学校の子どもたちが大勢招待されました。パキスタンの少女が日本の歌「上を向いて歩こう」を日本語で斉唱し、子どもたちは日本を意識したデザインの衣装を身にまとうなど、大変印象深い開園式となりました。

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開園式(後列右から5人目がカズミ理事、同列中央が猪俣大使(当時))
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子どもたちのパフォーマンス
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「上を向いて歩こう」斉唱

 後日、この式典を準備したCDAからは、感謝の意を込めて遊具メーカーの技術者の一人ひとりに盾が贈呈されました。慣れない国での業務の遂行に自信を深めた遊具メーカー技術者の、「次の機会には、もっとうまくやれます。」という前向きな姿勢は、中小企業の方々の気概を感じられるものであり、その海外進出を後押しするという役割を担う中小企業ノンプロの理念が、本案件において実現されたといえるかもしれません。

 入札から据付・トレーニングの完了まで案件を監理したJICSとしても、CDAと遊具メーカーの橋渡しが出来たことは大変光栄であり、両者ならびに本案件に関わった各関係者の方々のご協力に深く感謝しております。日本公園の遊具がパキスタンの子どもたちに、これからも永く愛され、日本とパキスタンの友好のシンボルとなることを願ってやみません。

子どもたちの歓声の戻った日本公園
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※1 中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力:ノン・プロジェクト無償資金協力は貧困削減などの経済社会開発を実施している開発途上国を支援するため、必要な資機材などを国外から輸入するための資金を供与する無償資金協力です。支援決定の段階では特定のプロジェクトが想定されておらず、途上国のニーズや他ドナーとの調整を踏まえ、調達品目を柔軟に選定することができる、自由度の高い支援です。このなかでも特に日本政府の資金供与により、日本の中小企業が製造した製品を調達する事業が中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力です。

※2 薫蒸処理:木材等の病害虫を駆除するため消毒する方法の一つで、木材など輸出する場合、輸出先相手国の定めた基準に従い、消毒を実施します。

プロジェクト基礎情報

案件名 中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力
交換公文署名日 2013年4月30日
供与(E/N)額 2億円
調達代理契約 2013年5月15日
契約相手 経済省
実施機関 首都開発庁
プロジェクト概要 日本の中小企業製品の調達
<納入先>
・首都開発庁 ・首都病院 ・上下水道公社 (ラホール市) ・上下水道公社 (ファイサラーバード市)
JICSの役割 首都開発庁の調達代理機関として、入札からトレーニング完了までの案件監理、資金管理および調達業務を実施
調達内容 医療用焼却炉、超音波流量計、水位計等
遊具30種類
人工呼吸器等医療機材

このプロジェクトについて、株式会社産経デジタルが運営するWEBサイト「産経フォト」に記事が掲載されましたので、リンクにてご案内いたします。